2017年4月20日木曜日

介護のチームリーダーの仕事とは

 介護のリーダーシップとは何かを考えてみたいと思います。 


例えばの話し。
とあるリーダー達を集めて均等にいくつかのグループに分けます。そこに司会者から2つのお題がでます。

問①「リーダーの皆さんには簡単な質問です。世界で一番美味しいものを3つ決めて下さい。」
※ルールは以下です。
・時間は10分間。
・質問は受け付けません。

問②「あなたにとって理想の上司とは、どのような方でしょうか?」
※ルールは以下です。
・司会者・書記をじゃんけんで決めて下さい。
 一番勝った人は司会者。一番負けた人は書記。
・司会者から時計回りに自己紹介(名前・事業所名・業種)と簡単に理想の上司を述べて下さい。(1人1分厳守)
・グループ内で理想の上司とは、どんな人なのかを短い文章で説明してください。(40字以内)例:「人生経験豊富で自分の意見が言える海外においても活躍している渡辺謙のような人」
・話し合いの時間は10分間です。
・質問があればお答えしますので挙手してください。


どうでしょうか、この質の違う2つの質問。

同じ10分でも必ず、
①の回答は各グループでまとまりにバラつきが出て、答えにも幅が出ます。
②は逆にスムーズな進行になり、答えはあまり違いが無くなるでしょう。


具体的に①で起こりうる出来る事といえば、

・進行役や書記を用いるのか?から話し合ったり、決めずに各々で好物を言い出してしまい、結果を出すまでに時間が掛かります。
・BS法などの討論法が設けられておらず、発言者が感情的や抑揚のある人がいた場合は参加者が混乱を避けるため、その人の意見が通りやすく、結果に不満がでる。
・そもそも答えにそれぞれ好き嫌いがあるようなお題なのでランキングを付けるには無茶な質問で、混乱を生みやすい。
・答えに縛りがなく、世界一旨いラーメン、仙台市中央通り店の天下一品のこってり、麺類、食べたいと思った物、といったように良く似たものでも幅が出たり、ヒネリを効かした答えが出てくる。
・「リーダーの皆さんには簡単な質問です」という根拠のない言葉であおられ、さらに疑問が出ても質問できない事で司会者に反感がうまれやすい。

①のような曖昧なお題とまとまらないルール設定は“pm”です。


そして②で想像出来る事は、
・時間や話す内容に制限をつけたり、人に役割を付けているため進行にテンポが生まれる。
・自己紹介は事業所や業種を述べてもらい、場に堅さをだしている。
・具体例を挙げていて、各自が考える前にイメージを付けている。
・そもそもがリーダーの集まりであり、社会通念によるリーダー像ができやす。
・意見をまとめる作業も ”文章” なので、出た意見を合わせていくだけの作業で終えられます。

②のような具体的な絞ったお題で、進行に多くの条件があるのは“PM”です。


これは、
PM理論というリーダーシップのタイプのことです。

Pはパフォーマンスのことで、技術・効率・効果などの目標達成機能を表しています。この機能が弱いと小文字のpで表されます。

Mはメンテナンスで意欲・対人関係・団結力などの集団維持機能です。こちらも機能が弱いと小文字でmと表されます。


上記で出した質問の例は、司会者がリーダーという事になります。お題は指示で、ルールは職場の仕組みです。



PM理論の簡易版チェック表をのせますので、ご自分の事業所のリーダーを想像しつつ0点~5点で採点してみて下さい。

①業務進捗状況のチェックや報告はなされている。
②業務の指示は具体的にされる。
③問題が起こるとみんなで協力する。
④業務規定ははっきりされ守られている。
⑤問題が起こるとその原因をはっきりさせる。
⑥職場で業務以外のことでも気楽に話をする。
⑦忙しい時は気楽に仕事を頼まれたり頼んだりする。
⑧管理者以外の人にも影響されやすい。
⑨職場では個人的なことも配慮される。
⑩仕事は仕事として割り切っている人は多い気がする。
⑪決定したことは実行にうつされる。
⑫お互い相手の立場や相手の考えを尊重している。
⑬各階層(課長、部長など)は明確に区分されている。
⑭分からないことはみんなで協力する。
⑮責任は追及される。
⑯意見の違いがあると和解するように努力する。
⑰目標や計画の内容は明確に知らされる。
⑱創業記念、忘年会などは楽しみ、盛り上がる。
⑲意見の一致を大事にする。
⑳業務改善はおこなわれている。
 
 

PM相談交渉型
・質の高い結果が期待できる。
・レベルの低いメンバーは脱落したり結果が出るまで時間がかかる。

Pm指示命令型
・リーダーの経験、知識、スキルが活用できる。
・工場などの職場で有効。
・指示待ち集団となる・メンバーの自主性が育たない。

pM相談型
・集団に協調性が生まれる。
・研究所などの職場で有効。
・集団に協調性が生まれる。
・研究所などの職場で有効。

pm委任型
・メンバーが自分で考える事によりメンバーの自主性や創造性が育つ
・自分勝手になる
・リーダーの無責任体制となる。



更にはPM理論を発展させたSL理論というものも紹介しておきます。

SL理論(Situational Leadership)
PM理論は2つの機能が高いほど良いとしているのに対し、SL理論ではリーダーは職員の状況に応じてそのスタイルを変える必要があるとした状況適応理論です。

 

①部下が習熟度の低い場合は(PM)相談交渉型リーダーシップで関わる。
なぜなら新人は、“何が分からない事かが分からない”ので聞きようがないし質問できません。行うべき作業を事細かに指示が必要ですし、不安要素や人間関係にも配慮をする。

②部下が習熟度を高めてきた場合は(Pm)指示命令型リーダーシップへと変える。
業務の流れが分かった初級者は、“分からないから教えて”となりますが、失敗すると「教えてくれないから悪い」になりやすいです。何のために行うのか?なぜその作業が必要なのか?というような抽象する能力の高い指示へと変えます。根本の答えを部下からの質問やコメントを引き出して、それに答えるといった協働のコミュニケーションが効果的である。

③部下がさらに習熟度を高めてきた場合は(pM)相談型リーダーシップとする。
新人教育が出来るほどの中級者は、“全体が見えてきて分かっているけど協同でないと出来ない”事が出てきます。「協力しない人が悪い」とならないように部下に質問を投げかけ、意見を傾聴し、部下が自ら考え能力を育んでいくようなコーチングが必要となる。

④部下が完全に自立性を高めてきた場合に(pm)委任型リーダーシップです。
小規模の委員会や企画などのリーダーができるクラスを上級者とし、部下が高いスキルと意欲を持つ段階です。部下に権限を移譲して指示的行動と相談(協働)的行動を減らすことが求められる。しかし放任になり過ぎないように最小限のアドバイスをしたり節目で部下の業績を褒めるといったリーダー行動は引き続き必要となります。部下が「私の問題です」や「私が悪い」と孤立になり過ぎないような配慮が必要です。
 


ではあらためて介護現場でどのようなことがPM理論なのかを照らし合わせて考えてみましょう。


介護の目標達成機能(P:技術面)とはなんでしょう。

〇身体介護技術
・食事(介助方法・食事形態) ・口腔ケア・移動・移乗・体位転換・排泄・入浴・自助具・リハビリテーションなど

〇対人援助技術
・バイスティックの7原則①個別化の原則②自己決定の原則③受容の原則④非審判的態度の原則⑤意図的な感情表現の原則⑥統制された情緒関与の原則⑦秘密保持の原則 ・接遇、マナー  ・コミュニケーション技術 ・余暇活動 ・発達心理学など

〇疾病の理解
・生理学 ・認知症 ・糖尿病 ・高血圧 ・脳卒中 ・便秘 ・緊急対応 ・感染症 ・薬 ・療法など

〇住環境の理解
・車椅子 ・自助具 ・ベッド ・空間づくりなど〇家政学・洗濯 ・料理 ・掃除 ・電化製品 ・しつらえ など

〇制度と保険
・介護保険 ・成年後見制 ・医療保険 ・生活保護など


介護現場で求められる技術や知識は多岐にわたり幅広いですね。おのずと取り巻く人たちの視点も多岐になり、その技術と知識の良い悪いの評価も多岐になってしまいます。


*取り巻く人たち
主介護者、家族、介護職、介護支援相談員、福祉用具専門相談員、理学療法士、作業療法士、言語療法士、医師、看護師、歯科医、地域住民、成年後見人など
*視点生活歴、生活、目標、道具、動作、発言、欲求段階疾病、健康状態、口腔内、住環境、財産など


さらには認知症の人から求められている事は明確にしにくく、その何を求めているかと言う評価も本人、家族、上司、部下、他職種などで違いがでやすいということで、ケアは「正解のない仕事」といわれています。しかしケアの提供は利用者本位でないといけないという観点から「正解に近づかせる努力」は絶えず必要です。努力を実らせていくために、ひもときシートやセンター方式や認知症ケアマッピングなどが役に立ちます。



介護におけるMの重要性
介護とは技術面が多く、取り巻く人達は多岐にわたる。この2つを利用者の生活と重ね合わせてケアを行う必要が出てきます。それには柔軟な調整力と発想力が必要であり、広い視野も求められる。そしてストレスの処理能力も重要です。


介護の全てがPmではルーチンワークや指示待ちになってしまい新しい発想や気づきは生まれにくいですよね。
離職率が高く、感情労働といわれる認知症ケアにおいてストレスの管理や調整が行いやすいM環境は重要です。
※感情労働…知識や身体だけでなく気持ちや感情のコントロールが必要とされる労働。感情とともに共感労働ともいえる。



ではどうすればMの力が強くなるでしょうか?

まずはメンテナンスの技術を伸ばすためにスーパービジョンの活用はどうでしょうか。

スーパービジョンの3つの機能は支持M、教育P、管理(継続力)と、はっきり分かれているように思われますが全てに両面が含まれているように思います。

・スタッフを支える支持的機能 → ストレスの軽減やバーンアウトの防止の意識と取り組み。

・スタッフを育てる教育的機能 → ケアに対して納得できる根拠のある技術や知識を伝えることで対人援助のストレスが軽減できる。

・組織を維持管理する管理的機能 → 職場環境を整え全ての職員を組織の一員として機能させ、やりがいをもたせる。



実際に実用で考えてみたいと思います。


バーンアウト編

Q:負のスパイラルの中で問題の解決方法はどのようなものかを柔軟な調整力と発想力と広い視野で考えて下さい。
①チーム内でケアの力量に差がある
②チームワークで補い合う
③仕事量に差が生まれる
④給与・昇給はほとんど大差がない
⑤昇格・先輩になり更に責任が増す
⑥更なる仕事量の増加



A:この流れの中でスパイラルの解消を図るにはこのようなのはどうでしょうか。

チーム内でケアの力量に差がある。
・力量の視点を変え、職員の能力を業務遂行のみに基準を置かない。接遇や余暇活動の質やしつらえなどの能力も力量とし広い視野をもつ。
・採用基準の明確化。現在も不景気等による社会的背景があり、個々のモチベーションに差がある。人手不足であろうと最低基準を置いてないならブラック企業になっていきますよね。
・教育方法の見直し。様々な職歴をもった新入職員への教育方法の構築。
・職員の特技を活かし認め合う職場づくり。

チームワークで補い合う
・都度、分業や調整を行う。
・身体介護の全てを均等化しない。身体介護が得意の職員がいれば比重を変えてるのも方法のひとつ。
・OJT、コーチングの充実。
※⇒そもそもチームワークで補えられない場合は⇒できない仕事を出来ないままに⇒ケアの質の低下⇒過酷な業務内容⇒退職者増加⇒採用基準の引き下げ⇒…更なる負のスパイラルです。

仕事量に差が生まれる。
・介護がチームワークで行うものであることの意識付けを図る。
・業務内容や勤務体制の見直し。
・職員へのヒヤリングの充実。

給料・昇給は大差がない。
・見返りを何とするのか(給料? 目標達成? チーム連携? 人との繋がり?)
・仕事に見合った給料かどうか。本当に世間と比べ低いのか?労働条件としてどうか?
・昇格にみあった昇給を。
・仕事への目標、目的意識の再確認。(何のためにこの仕事で働くのか、どうして今の職場で働いているのか)

昇格・先輩になり責任の増加
・ボトムアップの仕組みを充実。
・個々のスキルアップを認め合う(その経験年数なら出来て当たり前、で終わらせず認め合う。)
・職員の成長を喜ぶ。

更なる仕事量の増加・権限の委譲。
・スーパービジョンの構築。



すこし余談ですが、
④の何の目的で仕事をするのか?という点。
・自分の生活のため
・家族の生活のため
・夢に向かっての通過点
・仕事での目標がある
など、それぞれ職員の働く前提は違います。

例えば料理人の場合
1. 給料を貰う為に、注文の入った料理をレシピに沿って調理するのが仕事。
2. なるべく長く仕事をするのが目的で、社長から怒られないように調理をするのが仕事。
3. 最高の料理人に成長する為に、美味しかったと最高の笑顔にすることが仕事。
4. 自分の料理を食べる事で一日の疲れを癒して貰う為に、真心をこめたお袋の味を提供するのが仕事。

その時の料理の味は同じでも二度目に訪れた客が食べた味はそれぞれ変わっているはずです。どんな意味を自分の仕事に見いだしているか?で今後の仕事は大きく異なってきます。


では次です。
負のスパイラル②問題の解決方法を考えて下さい。リーダー編
①強い行動心理症状の利用者
②現場職員が対応に困惑
③上司は、なんとかしなさい
④現場職員との意見の相違
⑤…

さてどうでしょうか。こちらはA:は、載せずに皆さんが考えてみて下さい。今後にまた関連の投稿をしたいと思います。


話しはもどりますが、
「もしドラ」で有名なドラッカー
経営学者のドラッカー著書『マネジメント』をもとに女子高生が企業経営や組織論を応用し、高校野球のマネージャーの仕事に挑戦する物語。

その中で出てきますがリーダーシップという職業能力とは…。
✕ 才能でもカリスマ性でもない。
✕ 人を引きつけることではない。
✕ 仲間を作る事でもない。
✕人に影響を与える事でもない。

どれも自分が中心の(主人公的な)行動は✕になってます。リーダーとは事業所の主役になる事ではありません。
では何か。
リーダーシップは才能ではなく仕事。業務です。持って生まれたものではなく訓練によって得られる能力ということなのです。パフォーマンスとメンテナンスの調整業務です。リーダーの発想と判断が物事の全てではいけませんよね。



今回はリーダーにおいての 情熱 意思 信念 気合などにはあえて深く触れておりません。しかしリーダーの自己啓発本には多くとして仕事量や情熱で引っ張るような記載があります。

終わりも正解もないこの仕事に気持ちひとつで引っ張れば、気づかないうちにリーダー自身の燃え尽きやチームの燃え尽き、チームの大きなストレスにも気が付かない場合があり、それは逸脱行為の危険が出てきます。

リーダーは出来ていない所を見つけ、必要な順を決めたり、少しの工夫と努力で改善出来る事柄を考えるところから取り組んでいく。はじめはその程度からが良い塩梅です。

利用者と同じように、職員も長くいるとそこが自分の居場所になります。新入職員は周りに認めてもらおうと熱を持って努力しますが、長くいると認めてあげる立場になろうとします。努力を辞めちゃうんですね。継続したチームメンバーで慣れ合いにならず、個々が新たに出来る事を増やしていくようになるのが重要だと感じています。



まとめ
私個人の意見としては、SL理論はリーダーとは全て出来て当たり前。介護の知識技術を会得しなさい。スーパーマンになれ!と言われているようでプレッシャーです。嫌です。
それよりPM理論をチーム全体のバランスとして考える方が上手くいきます。


〇チーム内にはどのようなスタッフがいてるでしょうか
リーダーと補佐役(サブリーダー)とのバランスを考える。
・欠点を補い合うタイプ ⇒ 意見のすり合わせが大切
・似た者タイプ ⇒ 長所も短所も増幅するため意気投合したときには周囲の意見を聞く。その関係を築いておく。
自分や職員の考え方と視点を理解して調整する。


〇どのような視点があるかを知る。
・PM理論 ・SL理論 ・自己理解 ・相手(部下、上司、他業種)の立場 ・独占業務の分野 ・前職の経験 ・トップダウンとボトムアップの質など

介護リーダーとは多岐の視点の理解と調整業務です。

今回は長い!

ヘイヘーイ

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